雨の日のラッシュアワー

 
 
 
気分が良かったり、調子が良かったりすると、それは風邪の前兆なのだ。
わたしの場合。
 
という訳で、先週の金曜日に、また風邪をひいて、ベッドに臥せていた。
きっと、ウイルスか何かが、遺伝子の配列を何らかの理由で乱したり、新たな塩基配列を結合させたりするのを必要としていたんだろう。
そんなときは、息ができず、身体の節々が痛くなり、何もやる気がおきなくなる。
 
というわけで、3日間、まるで鬱病の落ち込みのような状態でベッドに伏せていたのだが、
今日は朝から雨の中を混んだバスに乗って出勤。
そして、偶然、ベーシストのS君とバスの中で出会う。
 
S君は、シルバーシートの横の席に座っていた。
わたしは彼と話をしようと彼の席の前に立つと、
後ろから列をなしてなだれ込んで来る乗客に、故意に、背中にエルボーを喰らう。
 
それでも、最近は精神が安定しているせいか、殴り掛かったりはせずに、微笑みを浮かべてやり過ごし、
S君と今度のライブの情報を交換することができた。満員の雨のバスの中で。
 
駅に着くと、改札は人混みで中に入れない状態。
信号機の故障で上下線が不通とのアナウンス。
 
人にぶつかりながらやっとホームに辿り着くと、地下鉄が発車寸前。
閉まりかけたドアを無理やりこじ開けて乗車。
 
だれも文句を言う者もいない。
以前はよく、車内アナウンスで、
「駆け込み乗車はたいへん危険です。おやめください」
と、わざとらしく注意を受けたものだ。
 
まあ、日常とは、そういうもので、駆け込んだり、押したり押されたりしながら、
どこかに向かって進んでいるのだろうが、
だれもその目的地がどこなのか本当のところは分からない。
というのが、カスタネダドンファンの教え、だったりして・・・。
そして、そういう連中を、ドンファンは、”ファントム”(お化け)と呼んだ。
人混みで蠢いている99%は、この手のファントムなのだ。
その中で、”気づいている”ことは、容易いことではないが、とても大切なことだ。
つまり、怒りもせず、あせらず、イライラもしないように、自分自身をコントロールすること。
人に押されても押し返さず、ただじっと耐えて目的地に到達することだけを目的に自分の行動を律すること。
まさに、ラッシュ時の、特に雨の日の、しかも、不通となった路線の通勤とは、
現代の都会のメディスンマン(シャーマン)の修行なのだ。
 
というわけで、(山に篭らずとも)、未だに修行をしている身なのである。