夢と痛みの信号

  
昨日はAKIRAの夢を見ていた。
 
AKIRAは、90年代に六本木界隈で一緒にアートをやっていたアーティストだ。
 
夢の中ではとってもあやしいアートティストになっていた。
夢の中でなくてもとっても怪しいの奴なのだが、さらに怪しくなっていて、まるでインドで出会った路上の蛇使いのような格好をしていた。
夢の中で、彼はまさに各種の蛇の毒を扱っていて、それを日本各地のアート・カフェ・バーに売り歩いている。なんかの香辛料だとかなんとか出鱈目を言いながら。みんなを蛇毒で中毒にさせて、そのあと・・・なにかをたくらんでいるのだ。
僕は車を使ってAKIRAのいるアート会場に行くのだが、一車線の山道が閉鎖されていてそこに辿り着けない。
へんなおじさんが気が狂って道路を閉鎖しているのだ。
AKIRAは、その頭が変なオジサンと交渉している。きっと蛇の毒のことについて交渉しているのだ。
頭が変なオジサンは、それでも、自分よりAKIRAの方がより変だと分かるだけの知性は有しているらしく、おじけずいてAKIRAの言うことをきく。
会場になんとか着くことができた僕は、AKIRAと再会したのだが、日本から今度は世界中に”蛇毒”をばら蒔く計画を打ち明けられて、ちょっと僕にはできないことだな、と思って、なんて断ったらいいかいろいろと思い悩んでいる。
そんなような? よくわからない夢だ。
 
AKIRAは胃ガンになって死にそうだと、ミドリちゃんからメールをもらったことがあったが、僕は冷たく「それはたいへんだね〜」と返しただけだった。
 
AKIRAのことだから、プラス思考と何でもいいことは実行する行動力と自分を信じる信念で、絶対に”奇跡的”にガンなど治ってしまうだろうと僕は確信を持って思っていたから、まったく心配していなかったのだ。
 
そのあと、AKIRAのブログ(http://ameblo.jp/akiramania/)を見ると、やはり”奇跡的”に全快したようだ。
 
ミドリちゃんは今やヨーロッパなど世界中で活躍している日本を代表する現代美術作家だ。
 
ところで、そんな夢を見たのは、僕の胃が痛かったからだった。
なんか腹の調子が悪い。胃が痛くて、気分が晴れない。
この蒸暑い天候が続いて、冷たいものを飲んだりするから、さらに、いろいろ食べ過ぎたり飲み過ぎたりして、胃がおかしくなったから、AKIRAの夢を見たのだろうと思った。
 
ときどき、知り合いの友人から「最近絵はかいてるの?」と訊かれるが、描いていないと自嘲したように答える。
配偶者からは、「昔はとり憑かれたように絵を描いていたのに、最近は描きたくなくなったの?」と訊かれるが「うん」と答える。見てのとおり”アトリエ”は人が絵を描けるだけのスペースは最早なく、物で埋まっている。”アトリエ”を移転する計画歯あるが、そこに人間もいかなければならないだろう。つまりこの僕が。四六時中そこにはいられないから、不便だ。時にはなにか食べたくなったり、本を読んだりしたくなるだろう。生活と切り離されたところに画材があったら、そこまで行かなければならないし、逆に、生活物資を全部そこに運ぶ訳にもいかない。
 
そんなことを考えているだけで胃がキリキリと痛くなってくる。
 
僕は破綻しているのではないか? と最近思う。
僕は既に、とっくの昔に破綻している。それに気がつかないのは他ならない自分自身、僕だけなのだ。でも逆に言えば、僕が破綻しても、何も変わらない。創造された人間としてはなにも変っていない。この誰だかわからない肉体があり、脳があり、目があり、耳があり、鼻があり、口があり、胃があり、手があり、脚がある。
でも、自分自身の自由意志で進む方向としては、とっても間違った道に入りこんでしまい、更に、間違った道を選び、更に更に、間違った方向に進み、今ではもう、何が正しいのか間違っているのかさえわからなくなってしまったまま、まだ、どこかに向かって歩いている。
誰か”偉人”のヒトが言うような「自分の歩いた後に道ができる」などと自信を持って言える人は、「何かを成し遂げた人」だ。僕の運命は、逆に、混沌と、更に混沌としていき、僕の歩いた跡は深く深く闇に沈んでいくだけだ。理性とか理知的な判断(どちらが正しいかの二者択一)は、どんどんと複雑になっていき(三択、四択、五択、六・・・、そして、その中に答えがないことだってある。いやむしろ、それらは全部、より脳を混乱させるために仕組まれたゲームの言語で、結局、どこにも答えがないのが正しいのだが、この誰が作ったシナリオなのか分からないゲームはオーバーせず、たった一人だけのキャラクターは死なず、先に進むしかない。)ただ、混乱の跡だけがどんどんと無知の闇の中に沈殿していく。そして、知能は学習して利口になる代わりに、ますます混乱し、混沌とし、渾然とし、混濁し、知能は計ることすらできない幻想のみを生成するだけの幻覚製造機と化す。
 
そんな脳味噌の神経細胞の固まりと、胃のあたりにある太陽神経叢はシンクロしていて、きっと分子言語でお話しし合っているのだろう。キリキリ、キリキリと信号を送ってくる。頭がおかしくなった僕にでも分かるような信号として変換して、「あなたはすでに手遅れです」と「あなたの知性は死にました」と「もうあなたにできることは何もありません」と。