最近は

 
最近は仕事から帰るとすぐに風呂に入る。
風呂釜を空にして栓をして、
ぬるま湯を蛇口から注ぎ入れる間にシャワーを浴び
ぬるま湯が湯船に溜まったら
その中に身体を沈める。
水中に身体が没すると、
浮力で重力から少し解放される分だけ身体が軽く感じる。
下唇が水面下に沈まない程度に水中に浸かって
ぼんやりとしていると、
だんだん意識を失っていく。
その過程で、自分の思考が勝手に訳の分からないストーリーを生成し始める。
他愛もないストーリー。
見ず知らずの人と交わす無意味な言葉。
それらのひとつひとつを覚えておこうと思うのだが、
すっかり忘れてしまい、
だんだんと居眠りに落ちていく。
 
腹のあたりに溜まった脂肪を触る。
足首には脂肪がなにもない。
ただ、骨と皮と筋があるだけだ。
足首を触る。
なぜ腹にだけこんなに脂肪が溜まるのか。
 
目をつぶると、目玉の奥が疲れているのに気付く。
目を酷使しているからだ。
左肩と右肩の骨がアンバランスに傾いている。
 
蛇口から水を滴らせ、
浸かっているぬるま湯をだんだん冷たくしていく。
 
頭に冷水を滴らせて、
なんだか覚醒でもしたように自分を誤魔化す。
覚醒なんかしちゃいない。
ただ冷水の刺激に目が醒めただけだ。
 
湯船の中で歯を磨き、
歯間ブラシとデンタルフロスで歯の間を磨き
上半身を乗り出してシャワーヘッドを掴み
口の中に水しぶきを入れる。
 
頭は既に洗ってある。
リンスもした。
身体も石鹸で洗ってある。
髭もそってある。
 
歯も磨いたことだし、
脳味噌もぼんやりと朦朧としてきたところを起こされたことだし、
 
風呂から出ると、
タオルで水気を拭き取り、
髪の毛をオールバックに梳かし、
耳の中に入った水を綿棒で綺麗に吸い取ってから、
顔と身体にクリームを塗る。
 
これでお終い。
 
後は、棺桶に入って、火葬場で焼かれるだけ。
 
なんて幸せな人生だったことだろう。と、回想する会葬者は、
自分一人しかいない。