1(ダイダイエマニュエル)から、今後、続く(かも)

 
 まだ六本木にヒルズもミッドタウンも建ってない頃、六本木防衛庁の向かいにあった伝説の画廊”ダイダイ・エマニュエル・ギャラリー”(当然、今現在そのギャラリーはなくなっている。)のオーナー田中満知子さんが、新しく超近代的なビルを建てたというので招待された。僕なんかのことを覚えてくれたことに感謝しながら、そのビルの最上階に行くと、大勢のアーティストが大きな部屋一杯のテーブルにぐるりと車座になって座っていた。ざっと数えて総勢50人はいるだろうか。中にはAKIRAや相原康宏、三田村美土里なんかの、90年代D.E.Sとして一緒にゲリラ的グループ展を六本木界隈でやっていた連中も混ざってはいたが、その他のアーティストは僕にはよく分からない若い、今流行りの現代美術の人たちのようだった。周りの壁には一面、絵が飾られていた。その中に1枚、僕が19歳のとき初めて描いた油絵の自画像もあった。わいわいがやがやと談笑しているのだが、ほとんどの若い男女はとてもファッショナブルな格好(今流行りの服装)をしている。とっても可愛い女子や、痩せて背の高そうなかっこいい若い男子もいる。どうやら、全員が集まったらしく、がやがやした談笑が一瞬静かになると、オーナーの田中満知子がちょっと関西なまりのアクセントで「みんな集まってくれてありがとう。今から自己紹介してもらおうと思うんだけど、どうかな。あたり前のことすぎてつまらへん?」と言う。周りが一瞬、笑いだの、感嘆の声だの、溜息だの、隣の人とびっくりした顔を見合わせてなんかしゃべる声などでガヤガヤとする。僕は(あー、やだな、こういうの(大勢の前に出てしゃべらされるの)嫌いなんだよな。出来ればぼくなんか存在しないみたいに目立たなくしていたいのに・・)と思っていると、早くも目立ちたがり屋でうずうずしている若い男(スメリーのような)がさっそく自発的に自己紹介を始めてしまった。彼のスピーチの1センテンス1センテンスごとのピリオドに、どっと会場に笑いの渦が巻き起こったが、僕はぜんぜん笑いもしなかった。そのお笑いタレントのギャクのような言葉は、文章にしてみればなんの意味もなさないただの”無意味”でしかないのだが、そのしゃべり方が大げさで、抑揚をつけ、思わせぶりで、それにつられてみんな我を忘れた猿のように笑っているだけなのを、僕は知っているから、一人しらけて下を向いて座っていた。
 彼のスピーチが終わると、全員が割れんばかりの拍手にやんややんやのブラボー!まで加わって、一気に大変な盛り上がりとなった。次に自己紹介する人はさぞやりにくいだろうと思っていると、案の定、誰も自己紹介を始める者がいない。満知子さんが、「じゃ、隣の人いい?」と目で指示されたて立ち上がったのは、彼の右隣りに座っていた若い女の子だった。
 真っ直ぐに立ち上がった姿は緊張していて、顔を赤らめてしばらく言葉が出ない。とっても可愛い子で、長い黒いつややかな直毛が肩の下30cm(胸の下くらいまで)伸びていて、鮮やかなオレンジ色の袖無しワンピースを来ている。長く細い腕と紅潮した頬は、まるでセルロイドのキューピーさんのようにつややかに光っているように見える。とっても清潔そうで、たった今、石鹸で全身を洗って出てきましたというようにキラキラ光っているように僕には見えた。きっとまだ10代か、20を過ぎているとしてもまるで世間知らず、わたし好きな絵だけしか描いたことがありません、自己紹介することなど他になにも思いつきませんと言っているように立ち上がったはいいものの、下を向いてうつむいているのみで、かえってその姿が、100の言葉を使った雄弁なスピーチよりも、自分を余すところなくさらけ出し、自己を完璧に紹介しているように僕の目には映った。
 
つづく(ちょっとコーラを飲んで、アップルパイを食べたくなったので、中断するが、このブログは一度投稿すると、同じ日に他の記事が書けないため、まだ語り足りないことを忘れてしまわないために、別のブログに続きをかくかもしれませんので、悪しからず・・)
 
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