同行

 
 
今日は、精神病院から施設に入所するオニイサンに同行した。
 
施設は1時間に2本しかバスが来ない田舎の森の中にある。
 
とてもいい所だ。
 
バス通りから山の方に坂道を上がって行くと、途中に車が通るには狭すぎるトンネルがある。
心霊スポットになりそうな(きっともうなっているのかもしれない・・)、
山の中の人知れぬトンネル。
近くにうっそうと雑草に囲まれた調整池もある。
そんな環境の中、丘の中腹に施設がある。
 
小鳥の鳴き声がする森の中、
一人部屋にはクーラー、冷蔵庫、ベッド、洗面台、お湯の出る蛇口、クローゼット、勉強机、小さな引き出し棚がある。
 
窓からは、森の木々が見える。
 
とってもいい所だ。
 
そこへ行く途中、バスを待っていて、
彼と二人で、話をした。
 
彼のこれまでの人生を語ってくれた。
 
「缶コーヒー飲む?」と訊くと、
「いりません」と言う。
「おごるよ」と言うと、
喜んで、
「じゃあ、BOSSのカフェオレがいい」と言うので、
私も同じのを飲んだ。
 
薬の説明を詳しくするので、
「詳しいんだね」と言うと
「○○さんが詳しいんです」
「○○さんがぼくに教えてくれたんです」
と言って、小さなメモ帳に細かい字で書かれた薬の成分のメモを見せてくれた。
 
「運動して、健康になれば、薬なんていらなくなるよ」と言ったら
「はい」と小さい声で応えた。
 
部屋に入って、一通り見回した後で、私は思わずこんなふうに言ってしまった。
「いい部屋だなあ。僕がここに入りたいよ」
彼は、ニコッと笑っていた。