ライオン

 
 
今日は朝から、こんな妄想に囚われていた。
 
うまく言えないが、「もし、あの人がライオンだったら・・・」
 
職場の男が皆ライオンに見える。
 
若い20代の彼は、いつも筋トレに励んでいる。
髭を生やしているが、筋肉質の身体は痩せていて背も高い。
彼なんかは、若い俊敏なライオンそのものだ。
まだ若造だが、走ることに関しては引けをとらない。
もっと年上のライオンから威嚇されれば、かなわないだろうが、
戦っても、死ぬことはないだろう。
俊敏に攻撃をかわして、草原の彼方に駆けていくだろう。
 
30代の彼は、まだ経験不足だが、そこそこ貫禄がついてきている。
脂肪がたまって、少し太り気味だが、それだけ肉を喰らっている証拠だ。
群れの機微を見極める知恵に長けているからこそ、栄養を付けることができるのだ。
それなりに状況を判断し、自分が不利にならないように振る舞い、
群れの繁栄にも寄与できる。
リーダーにはなれないが、ナンバー2にはなれるだろう。
 
背は低いがバイタリティーに溢れている40代の彼は
誰にもかなわない戦闘心がある。
いざというときには牙を剥き、
誰にも服従しない王者の魂を持っている。
 
50代の彼は、さながら群れから外れた、孤高のライオンだ。
老い始めてはいるが、まだ若造にはかなわない。
たった一人で、草原を疾駆し、
余裕の微笑みを浮かべながら、
まだどんな相手にも闘いをいどむことができる。
 
という具合に・・・
一人一人、ライオンに見立てると、本当にライオンに見えてきた。
中には、どうしてもライオンに見えない奴もいる。
軟弱な奴だ。
 
そして、思った。
僕がライオンだったら、どんなライオンに見えるだろうか・・・?
 
群れから外れた一匹狼のはぐれライオンだろうか?
ちょっと前は、自分は”瀕死のライオン”だと思っていた。
今は、凶暴なライオンに見えるだろうか?
それとも、俊敏なライオンに見えるだろうか?
それとも、知恵に長けているライオンのように見えるだろうか?
孤高のライオン?
悲しいライオン?
それとも、どんなライオンだろう?
 
そんなことを考えていた。
 
そうしたら、今日の夕食はイタリアンだったが、
偶然、注文していたのが、子羊の骨付き肉だった。
1皿2つ盛ってあるのを、2皿も食べてしまった。
 
骨についた子羊の肉にかぶりつきながら思った。
「今日、ライオンのことを想像してたよな・・・
 そうしたら今、このように、子羊肉を食べている。
 まるで自分は、子羊を喰らうライオンだな・・・」
 
腹が一杯になり、
草原で眠そうに重い瞼を閉じている
腹の出たライオンになった自分は、
食物連鎖の頂点に立って、
いったい、何ができるのだろう?
霊長類として、
ライオン以上の、威厳と尊厳を持ち続けることができるだろうか?
死ぬまで・・・
この私は、
ライオンのように
自己を強く保ち続けることができるだろうか?
自分自身の王者でいることができるだろうか?
 
 
そんなことを考えた。
 
 
経験によって、ライオンにもなれるし、ネズミにもなる。
 
ドブネズミでもいいと言う歌もあるが、
辛い経験、未知の冒険によって自分を鍛え、
できれば、ライオンの目のように
動じず、どんなときでも王者の輝きを失わないでいたいと思う。
 
  
 
私はまだ、闘えるだろうか?
身震いするくらい吠えることができるだろうか?