サイケデリックな名札

今思い出した。僕が小学2年か3年生の頃のこと。名札は丸くて、外側の縁が黄色だった。白く丸い紙に学年とクラス、その下に名前が黒いサインペンで書いてあるだけだった。僕はそれが物足りなくて、サインペンで名札の紙に絵を描いた。もちろ学年もクラスも名前もちゃんと見えるようにデコレーションした。それが楽しくて、毎日違うデザインで絵を描いて名札に入れて学校に行った。ところが、その名札に誰も言及しない。担任の先生も何も言わない。名札にそんないたずら描きをしているので、担任の先生から怒られるかもしれないと思ったが、何も言われなかった。ところが、この絵が描いてある名札に初めて言及したのが、バーさんだった。学校でも一番歳をとっているバーさんの先生だ。何年何組の先生かもわからない。そのバーさんの先生が僕に話しかけてきたのだ。「それは自分で描いてるの?」。当たり前じゃないか、他の誰が僕の名札に絵を描くのか? サインペンでデコレーションした名札の色彩は、今で言えば"サイケデリック"だった。バーさんは、毎日違う絵が描いてあるこのサイケな名札を毎日見ていたのだと思う。そして、今日という今日は、言わずにおけなかったのだろう。「名札に絵を描くのはやめなさい。学年と組と名前を黒いサインペンで書きなさい」。ぼくはその命令には従わなかった。次の日も次の日も毎日違うデザインをしたサイケデリックな名札を付けて学校に行った。バーさんの先生は毎日僕のことを見つけては注意した。そして、とうとう僕は、名札に絵を描くのを止めた。バーさんの先生がいつも名札に絵を描いている僕をバカにしたようにその絵を見ては、そんなものを描くなと言ってきたからだ。だからとうとう幼い僕は折れて、黒いサインペンで学年とクラスと名前しか書いていない名札をして行くようになってしまった。そんな事をふと思い出した。